慶應義塾普通部入試の解体新書 | 過去問データに基づく算数傾向分析と対策


『慶應義塾普通部入試の解体新書』とは?

慶應義塾普通部の直近10年間の入試を解体・徹底分析し、一般の方からは非常に見えづらい入試および入試問題の特徴を明らかにすることを通じて、世間一般で言われている常識とは異なる考察をお伝えし、入試突破にあたっての体系的な指針を提供することを目的としております。
入試対策において「全ての科目、全ての分野、全てのポイントを対策すること」は時間と能力に余裕があればそれがベストです、でもそれはあくまでも理想論です。
現実は、時間との戦い・屈強なライバルたちの戦いであり、その為には、時間対効果が高いと考えられる勉強を入試突破に向けて戦略的に行う必要があります。まだ志望校対策に腰を据えて取り組む前段階である5年生や、追加の学習の余裕がない6年生前半でも、志望校を意識し、頻出単元の応用・発展技術には積極的に手を伸ばしていくことで、6年生後半の志望校別特訓クラスのスタート時点でライバルと数段の差をつけることもできるでしょう。慶應義塾普通部中突破の頂に向けて最短・最速で登って頂く為に、是非ご活用頂ければ幸いです。

慶應義塾普通部の最新入試の算数解説動画、難易度・傾向分析などは以下からご覧いただけます。

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慶應義塾普通部入試の基本データ

慶應義塾普通部偏差値(サピックス/四谷大塚/日能研)

 サピックス四谷大塚日能研
2025
2024586466
2023596365
2022596464
2021596465
2020586465

慶應義塾普通部の受験者・合格者数・受験倍率推移

 受験者合格者倍率
2025
20245261952.70
20235571952.86
20225752052.80
20215631952.89
20205891803.27
20195941803.30
20185911903.11
20175461902.87
20165781903.04

受験数は増加トレンドにありましたが、2019-20年の倍率上昇やサピックス偏差値の上昇によりやや回避された方がいらっしゃるのでしょうか、2021年以降は以前の水準に落ち着きながら、徐々に減少傾向にあります。

倍率は、2019-20年は合格者数が減少したこともあり、2018年には3倍を突破していますが、こちらも2021年以降は以前の水準に落ち着きながら、徐々に低下傾向にあります。

合格者数は2018年まで190名でしたが、2019-20年は、定員数180名と同じ180名となり、2021年からはまた以前の水準に戻りました。なお、繰り上げ候補数は2019年から50名ほどから70名ほどまで増えています。

この数年の変化を見ると、基本的には「繰上げ合格後の辞退者」を減らせるように試行錯誤した結果、合格者数を維持しつつ、繰上げ数を増やすことになったのではないかと考えられます。

なお、データからは実際の繰り上げ数はわからないものの、例えば聖光学院合格者が辞退するケースも考えられますので、おそらく実際最終的に合格通知を受け取れるお子様の合格倍率はもう少し低いのではないかと推測されます。

慶應義塾普通部の合格最低点・合格者平均点・受験者平均点

【4科目】

 合格最低点 合格者平均点受験者平均点
平均222(56%)242(61%)205(51%)
2025
2024222242205

【算数】

 合格者平均点受験者平均点
平均55(55%)45(45%)
2025
202455(55%)45(45%)

2023年度以前は公表されていませんでしたが、2024年度に突如公開されました。

2022年度以降の問題の難化により、受験生にとって難しすぎて差がつかない状況なのではないかと考えられます。

慶應義塾普通部の科目別配点と試験時間

 点数制限時間
国語100点40分
算数100点40分
理科100点30分
社会100点30分

4科目均等配点となっております。

慶應義塾普通部の算数概観

慶應義塾普通部の算数 問題構成

試験時間は40分。100点満点で、大問9〜10題構成です。
大問9題編成と聞くととてつもなく重いように感じられますが、大問といっても、早稲田に代表される他の男子校のように、問題文が長く、小問(3)まであるようなものではありません。
慶應普通部では基本的に1、長くても2題となっています。「大問」と呼んではいるものの、他校でいう小問集合のようなものです。
そのため、小問数でカウントし直すと、直近5年は以下のようになります。

20202019201820172016
大問数9910109
小問数1314131414

(2017年算数大問5の速さを小問2とカウントした場合)

大問5題構成の早稲田は小問15−17題程度なので、「慶應がとりわけ問題量が多いわけではない」ということがわかります。
しかし、時間制限は早稲田が60分であるのに対して慶應普通部は40分となっており、1問あたりにかけられる時間はかなり減少します。

また、確定事項としては、毎年大問1は四則演算の計算問題2題から構成されています(2014年では3題構成ですが、計算は2題です)。
近年では、(1)が与えられた式の計算、(2)が式の完成(逆算)というパターンが続いています。
大問2以降は年度によって分野が異なっており、出題が確定しているものではありませんが、出題分野の偏りは存在します。以下で見ていきましょう。

慶應義塾普通部の算数 分野別出題割合

慶応普通部の過去10年間の配点を推定して集計した、入試問題の分野別出題シェアと出題比率のグラフは以下のようになります。
(なお、正確な配点は公表されていないため、あくまでも推定値での算出となります)

出題得点シェアが高い順に

といった形になっています。

「注目したいことはまず、場合の数の出題の多さ」と言いたいところですが、まず第一には立体図形、平面図形(割合有、無)の合計が30%近いことが挙げられます。早稲田(43%)ほどではありませんが、それでも出題頻度が高いです。これらの分野は単体として小問を作成しやすい、という事情が理由として考えられます。

逆に、規則性の出題はここ11年で0回、水と水グラフも0回、図形・点の移動の出題も少ない傾向にあります。
これらは他の学校で大問として(1)〜(3)・(4)までといった連問で出題されやすい分野ですが、慶應普通部ではそのように長い大問は出題されないため、作問しにくいのではないかと考えられます。

慶應義塾普通部の算数 分野別難易度比較

慶応普通部は早稲田よりも簡単?

慶應普通部の直近11年間で出題された問題を難易度レベル別で分けると、このような比率になります。

A=基礎レベル/ミスなく合わせたい
B=応用レベル/出来が分かれる
C=発展レベル/出来なくても問題ない

ここから、慶應普通部の問題は基礎レベルの問題が多く、難問奇問は少ない上、それによって勝負は分かれないということがわかります。
早稲田についても基本的に同様の傾向にありますが(第1回の直近7年でレベルA,B,C順に46.2%,50.2%,3.6%)、慶應の方が大問が短く(3)まで問題を広げていくといったことがないためその傾向は顕著で、基礎的な問題が占める割合が大きくなっています。

慶應では合格最低点などが公表されておらず、正確なデータが出ていませんが、合格者のレベルから65%から75%は求められてくると考えられています。

つまり、とにかくレベルAの問題を取り切り、(同じレベルの難関校と比較すると)数少ないレベルBの問題をどれだけ合わせられるかという勝負になります。レベルBの中で自分のできる問題を選り好みしている余地はありませんから、レベルAを完答した上で、いかにレベルBの少し応用的な技術問題に対応できるかどうかが勝負の分かれ道になります。

また上記の条件に加えて、早稲田と慶應普通部では小問数があまり変わらないにも関わらず、慶應は試験時間が40分であり、早稲田の2/3しかありません。

同じレベルAの問題であっても3分で解かなければいけない状況と、2分で解かなければいけない状況では、正答率が大きく変わってくるので、慶應普通部も早稲田と別の軸での難しさがあることが見えてくるでしょう。

2題構成の大問については、大問1の計算問題を除いた直近11年のうちの31題に関して
(1)レベルA  27題 レベルB  4題
(2)レベルA  12題 レベルB 18題  レベルC 1題
という形になっており、(1)はレベルAの可能性が高いため、制限時間内に解ききれなかった、あるいは計算ミスや問題文の読み間違えといった要因で落とさないように気をつけましょう。

そして、塾のテストのように、「後ろの大問の方が序盤の大問より難しい!」という決まりはどこにもありません。大問2がレベルBということもありますし、大問9がレベルAのこともあります。「素直に最初から順に解いていった結果、タイムオーバーで取れるはずだったレベルAを落としてしまった」といったケースは非常にもったいないので、堅実に解ける問題を選んで解き切りましょう。

慶應義塾普通部の算数 難易度×単元比率

多く出題されている単元と全体の難易度比率を示しましたが、それでは、この章では単元毎の難易度比較を記していきます。

まず、「A=基礎レベル/ミスなく合わせたい」問題です。

大問1で四則演算が2題出題されるということが決まっているので、出題比率が高いです。
これを除くと文章題や平面図形がやや簡単、立体図形がやや難解ということが見受けられますが、微差でしょう。
場合の数のレベルAは出題割合と比べるとかなり少なめになっています。

次に「B=応用レベル/出来が分かれる」問題です。

場合の数のレベルBの問題が占める割合は、出題割合に対してかなり高めです。
これは、他校の通常の大問では場合の数は序盤で実験をして、後半で書き出しや計算を行うといったように分けられていることが多いのに対し、慶應では作問の都合上小問にあまり分けられず、ヒントなしで自分で指針を立てなければならないため難解になりがちである、というのが理由として考えられます。
また、立体図形は場合の数ほどではありませんが、若干難解です。

最後に「C=発展レベル/出来なくても問題ない」問題です。

レベルCに関しては、11年間で2題しか出題がありません。そのためデータとしてはさして気にする必要もないでしょう。

ここまでを通じて、「場合の数が若干難解である」ということ以外は、分野別で難易度が劇的に変わるということはあまりなく、また分野の偏りが少ないことが伺えます。

慶應普通部に関しては時間制限がとにかくシビアなので、「難易度を考えて解く問題を選ぶ」という指標よりも、「(計算量が少なそう等)早く解ききれそう」かどうかを指標に問題を選び、解いていくと良いでしょう。

慶應義塾普通部の算数の全般的な対策

2章でも触れましたが、慶應普通部の算数は各問題の難易度がそこまで高いわけではありません。しかし、試験時間が40分と他の学校と比べて短いにもかかわらず、大問数が多いです。
一つの大問に10分程度かけるような早稲田と違い、慶應では一つの大問にはどんなに時間をかけても5分程度で挑まなければいけません。(勿論、早稲田の大問は(3)まであるのが一般的なのに対して、慶應は大問が基本的に小問1つか2つ程度なのでひとつの大問にかかる労力は軽めです。)

それでは、大問3−5構成の早稲田のような『大問重めタイプ』に対する、大問2−9構成の慶應普通部のような『大問軽めタイプ』のメリットとデメリットを考えてみましょう。

【メリット】
・問題文の長さや設定が軽めで条件が少ない
・序盤から分からなくても(3)や(4)まで続かないので、将棋倒しのように壊滅するといった問題が起きない
・ある大問が解けなくても被害が小さい
・大問の数が多いので、好きなところから解くことができる

【デメリット】
・1つの大問にかけられる時間が少ない
・ヒントが少ない(序盤の問題が解法の指針になりうるため)
・じっくり考えて難しい問題を解きたいタイプは向かない

以上のことを意識して、対策を練っていきましょう。

大きく2つの方針

◯1:レベルAをほぼ完答する
◯2:レベルBで1問でも多く得点する

があり、それぞれの方法をお伝えします。

(レベルAをほぼ完答するために)問題構成を把握する

まず試験が始まったらすぐ、全体を確認しましょう。各大問の問題文は1−4行程度なので5秒程度でサラッと見ていくことができます。

(レベルAをほぼ完答するために)早く解けそうなものから解く

問題構成を確認した後、得意な分野の問題や簡単そうな問題から解きましょう。
『どうせ時間内に全部解き終わって見直しも完璧だよ』という方はする必要はないですが、ほとんどの受験生はそのようにはいかないはずです。
その場合は前の問題から順にではなく、早く解けそうなものから解くようにしましょう。

そうすることで、残りの時間に余裕が生まれ、少し時間がかかりそうな問題を後でじっくり考えて解くことができますし、最悪捨てることができるので、得点を最大化できます(仮に時間がかかる問題を先に解いた場合、時間制限を意識して焦る上、解けなかった場合にはその時間は返ってきません。解ききれたとしても、そうして簡単な問題を残してタイムアップという形になると非常に損です。)

では、どのように意識すればそのような問題を選ぶことができるでしょうか?

①指針がたつ
②計算量や処理量が少ない
③自分の得意な分野
④2題構成の大問の(1)

の4つのポイントを意識しましょう、4-1に書いたように、幸いにも普通部の問題文は短いため、問題の把握はしやすいです。
①について、指針も思いつかないものは、考えている時間が無駄になってしまうので、他の問題を解いて着手しましょう。
②について、結局その問題を解き切ることに決めたならば、いつ解いたとしてもかかる時間は変わらないのですが、単純に計算量が少ない問題の方が速く解けるため得点効率も良く、計算量が多いというのはただそれだけで計算ミスのリスクとなります。
③について、場合の数以外は分野ごとの難易度差はそこまでないため、自分が得意なものを選択しましょう。
④について、2題構成の大問の(1)は簡単なことが多く、2題構成の問題を丸ごと捨ててタイムアップというのは非常に勿体ないです。他の大問では解ききれなかった際途中点はつきませんが、2題構成の大問では(1)が解けた時点で点数がつくため、単純に得です。

また、問題を選ぶというのはあくまで『手段』なので、選ぶという行為にあまり多くの時間をかけないように注意しましょう。

(レベルAをほぼ完答するために)瞬発力をつける

瞬発力をつけるということは、問題文の把握→指針を立てる→処理する のサイクルを速く回していくという意味です。
慶應普通部は問題文が短く、把握のスピードにはそこまで個人差は出ないでしょう。指針をすぐ立てられるようにするためには、普段から体系的に解法やポイントを整理しておきましょう(速さなら、どういう問題でダイヤグラム、線分図、比を使うのか、など)。

計算力に関しては普段から問題を解くことは勿論、複雑なものは後でまとめて計算するなど(簡単な例としては、円周率の3.14などは逐一計算せず、最後にまとめて計算します)計算の工夫を意識しましょう。

(レベルAをほぼ完答するために)解いた問題を合わせる。

一度で計算が確実に合えばそれに越したことはありませんが、その確率はあまり高いとは言えないでしょう。ミスが目立つ人は必ず見直しをしましょう。
『この問題は計算ミスしただけ』という軽い認識で終わらせる人がいますが、それは注意確認を怠ったためです。緻密に分析すると、自分がどういう問題でミスをしやすいのかが把握でき、危ない部分は慎重に解くなり見直しを徹底するなりで対策を取ることができます。

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